
TAKAKUJYU
『多角獣』は、東京藝術大学の学生による文芸同人誌として、今年創刊されました。この大学には文芸サークルのような活動が存在しません。「つくる」「表現する」ことを専攻とした学生が集まる場所ですから巧みな文章を書くことができる人も多いはずなのに(実際に、展示・演奏会などに足を運ぶと興味深いステートメントや作品解説をしばしば目にします)、本校ではこうした活動があまり行われてきませんでした。おそらく学生は専攻とする活動がなかなかに忙しく、そうではない、いわば趣味の制作にまで労力を回すのが難しいということがあるのかもしれません。わたし自身、以前から小説に興味を抱いていながら作品を書き上げたことはありませんでした。『多角獣』を立ち上げたのは色々な思いがあってのことですが、その中には、これがわたしにとって文芸創作をはじめる一つの契機になればというもくろみも潜んでいたのです。
そうして企画を進めていくうち人づてに続々と寄稿者が集まり、ついには15人という大所帯で一冊の本をつくりあげる運びとなりました。このとおり、文章を書くことに関心がある藝大生がたくさん潜在しているのだ、ということがわかっただけでも本誌を創刊した意義は達成されたのではないでしょうか。そしてこれを一度限りのイベントとすることなく、今後とも継続的に活動していければそれ以上のことはないと思うのです。本誌が文芸に興味を持つ藝大生にとって気兼ねなく集まっては何かをしたり、時には気づかれないうちに出て行ったりすることができる、さながら公園のような存在としてありつづけていくことができたなら、というふうにわたしは考えています。
この『多角獣』という誌名はアメリカのSF作家であるシオドア・スタージョンの名短編集『一角獣・多角獣』より引いたものですが、その名にふさわしく、詩歌・小説・戯曲・評論などきわめて多様性に富んだ作品が集まりました。お楽しみいただければ。
ー創刊に寄せてー

主宰 澁谷風司